実のところ,アダムズのわかりにくさは今日でもさほど変わっていない。(中略)教養人でなければ読み抜けない難しさがあるのに加えて,どれだけ研究書が増えていこうとも,単純な理解を許さぬ深さがアダムズの著作にはあるのである。 そうしたなか,日本において2016年に,岡本正明氏の手によって,ヘンリ・アダムズの研究書が出版されたことは,喜ぶべき出来事である。それは,アダムズ没後100年を2年先に控えての刊行であった。アダムズの残した文章の断片だけしか読まずに,彼を理解したつもりになっている者が,アメリカ研究者のなかには少なくない。私自身,学会報告した際,アダムズを研究対象にする者とそうでない者との知識の落差に驚いたことが一再ならずある。アダムズの主要な作品をすべて取り扱った岡本氏の作品が現れたことで,こうした状況を大きく改善する一歩が踏み出されたと,私は思う。(略)
今日でもアダムズ研究者は,アダムズをめぐる誤解や偏見を取り去るため,やるべきことは多い。本書の刊行を通じて,研究者の専門を越えた交流が深まり,新しいアダムズ研究が深まっていくことを私は期待している。
「アメリカ文学研究」第54号(日本アメリカ文学会)より(中野博文氏) |